建設業の経理には、押さえておかなければいけないポイントがいくつもあります。建設業は小売業と異なり注文から完成まで長期にわたるため建設業会計を用います。工事現場ごとの利益率を把握するために工事台帳と工事指図書も欠かせません。
1.建設業の経理業務
建設業は、他の業種と比べて特徴的な部分を持っています。
一般的な小売業と建設業の特徴を比べてその違いを考えてみましょう。
<小売業の特徴>
注文と同時に売買が成立する。
<建設業の特徴>
①工事の注文から完成・引渡しまでにかかる時間が長期にわたる。
②①にかかる時間が1年超に渡ることも多く、会計期間をまたぐ。
③前受金の慣習が存在する。
④外注費が発生する。
小売業は例えば商店街の八百屋さんを想像するといいでしょう。八百屋さんで野菜や果物を買えば、お金を渡すと同時に野菜や果物を受け取ります。これで売買は終わりです。いたってシンプルですね。
これに対して建設業はそうはいきません。
例えば、マイホームをつくってもらうとしましょう。マイホームを建築するには早くても半年近く、長い場合は1年超かかります。そして、この間、材料費や人件費などは多額になりますから、前受金をもらわなければ建設業者は自腹を切らなければなりません。
別の見方をすると、1件でも案件が代金回収不能になると、金額が高額なため建設会社自体の存亡にかかわることになりかねません。前受金の慣習が必要なことも想像に難くありません。
また、大きな工務店でもない限り1つの建設会社で工事は完結しません。大工さんや左官さん、配管工、電気工・・・などなど、自社で足りない部分に関しては外注しなければ完成しません。
よって、建設業はその特徴的な部分から商業簿記や工業簿記ではなく、「建設業会計」を用います。
このため勘定科目も他の簿記とは異なります。
≪商業・工業簿記と建設業会計の勘定項目の名称≫
分類 | 商業・工業簿記 | 建設業会計 |
資産 | 売掛金 | 完成工事未収金 |
仕掛品 | 未成工事支出金 | |
負債 | 前受金 | 未成工事受入金 |
買掛金 | 工事未払金 | |
収益 | 売上高 | 完成工事売上高 |
費用 | 売上原価 | 完成工事原価 |
この事を知らずに商業・工業簿記の勘定科目で日々の会計処理を行ってしまうと、
決算申告で大幅な修正が必要になってしまうので注意が必要です。
2.工事台帳と工事指図書
健全な経営のためには各工事の原価を管理し、そこから収支や利益率を正確に計算し把握する事が重要です。
ここで必要となるものが工事指図書と工事台帳です。
≪工事指図書とは≫
工事指図書とは工事の概要を書き記した書類のこと。
具体的には工事名、受注先、受注年月日、工事期間、工事場所、設計図書、添付書類等を記入します。
工事指図書 株式会社A建設 No.1234 | ||||
工事名 | ○○ビル建替工事 | 受注先 | 大阪府大阪市北区堂島2-3-2 (株)〇〇鉄工 | |
受注年月日 | 平成29年5月1日 | 工事期間 | 自:平成29年8月1日 至:平成31年3月31日 | |
工事場所 | 大阪府大阪市北区堂島2-3-2 | 設計図書 | No.5678 | |
添付書類 | 材料仕様書1部 作業仕様書1枚 | |||
社長 | 営業部長 | 工事部長 | 所長 | 発行者 |
≪工事台帳とは≫
工事台帳とは工事に掛かる費用を日ごとにわかりやすく書き記した台帳のこと。
具体的にはその日掛かった工事原価を材料費、労務費、外注費、経費(人件費とその他諸々)のように、区分けして記入します。
工事台帳 No.1234 工事名:○○ビル建替工事 請負金額:1,000,000,000円 | |||||||
年月日 | 摘要 | 工種 | 材料費 | 労務費 | 外注費 | 経費 | 合計 |
金額 | 金額 | 金額 | 金額 | ||||
blank blank blank blank blank | |||||||
合計 |
この工事台帳を現場ごとに記入・管理することにより、未成工事支出金(その時点までに工事に費やしたコスト)や、完成工事原価(その工事現場にかかったコストの合計)の金額を正確に把握することができます。
結果的に、工事現場ごとの利益率(原価率)を把握することができ、経営上の意思決定に役立ちます。
3.まとめ
- 建設業の経理では特殊な勘定科目「建設業会計」を用いる。
- 正確な収支・利益率を計算するためには工事指図書と工事台帳が必要である。
建設業の経理業務は他業種に比べ専門性が高く、経理への負担が大きくなってしまいます。また、万が一、経理担当者が退職した場合に新たな人材を探すことが難しいとも言えます。
弊社では建設業の経理に詳しい税理士が、会計処理や決算申告・請求書発行など、経理業務の代行を承っております。