資本金とは、会社設立時に元手として用意するお金のことです。新会社法の施行で、資本金は1円でも会社設立ができるようになりましたが、実際にはある程度まとまった金額を用意する経営者が多いです。
今回は、資本金の意味や、資本金の金額はどのように決めるべきかを詳しく解説。
目次
1.会社設立には資本金が必要
会社設立の際には、資本金が必要となります。
ただし、4種類ある会社の形態のうち、「合名会社」「合資会社」の2つでは信用や労務、現物出資が可能で、必ずしも現金を集める必要はありません。
しかし、実際に設立される会社に多い形態は、残り2つの「株式会社」「合同会社」です。この2種類の会社を設立する場合には、資本金が必須となります。
そもそも、資本金とは何かというと「事業を開始し、当面の間運営していくための資金」です。
もちろん、金融機関などから融資を受けたり、出資を募ったりして資金を増やすことはありますが、全ての元手になるのがこの資本金です。
その資本金はいくら用意すればいいかという、明確な決まりはありません。2006年の新会社法施行以降、資本金1円からでも会社設立ができるようになりました。
しかし、1円起業にはデメリットも多いので、ほとんどの起業家はある程度まとまった金額を資本金として用意します。
ちなみに、資本金と似た言葉に「資本準備金」というものがあります。
これは、簡単にいうと万が一の時のための積立金。資本準備金の金額は、資本金の半額までと定められていて、業績が悪化した場合には資本準備金を取り崩すことで会社財産を維持することができます。
資本金とは異なり、資本準備金は必須のものではありません。
2.会社設立時の資本金の決め方
それでは具体的に、資本金はいくら用意すればいいのかを解説していきます。
もちろん、業種や経営方針によって必要な金額は異なりますが、基準となるポイントを見ていきましょう。
(1)目安は3ヶ月~半年分の運転資金
多くの会社が資本金額の目安とするのが、「開業資金+3~6ヶ月分の運転資金」です。
起業してすぐに経営が軌道に乗り、十分な利益が出せる会社というのはごく少数。ほとんどの会社は、開業からしばらくは赤字や少ない利益で会社を維持していくことになります。
そんなとき、資本金が少なすぎるとすぐに資金が底をつき、せっかく設立した会社がすぐに潰れてしまいます。
ですから、安定した利益を出せるようになるまで、会社を維持する体力として資本金が必要なのです。
開業後、赤字でもかかる経費(固定費)としては、以下のようなものがあります。
- 事務所や店舗の家賃
- 商品の仕入れ代金
- 従業員の給与
- 水道光熱費・通信費
など
また、当然それとは別に開業資金も必要です。
開業資金として必要な額は、業種によってかなり幅があります。例えば、大規模な工場が必要な製造業なら数千万円かかることもありますし、PC1台で始められるITやサービス業なら数十万円で十分ということも。
資本金を決定する前に、まずは開業準備と半年後までの経営の見通しを立て、必要な金額を算出してみましょう。
(2)取引先・金融機関からの信用を考慮する
次に、取引先や金融機関といった、他者から見た場合の資本金について考えていきましょう。
先に解説したように、資本金が少ない会社は開業直後に潰れてしまうリスクが高いです。
そんな会社に、商品を卸したり融資したりしたくないのは、当然と言えるでしょう。
そのため、資本金が少ないと取引先や金融機関から敬遠されてしまい、事業がうまく拡大できない可能性も。取引先や金融機関からの信用を得るためには、資本金は多いに越したことはないのです。
(3)税金負担額とのバランスを見る
一方、資本金は多ければ多いほどいいという訳ではない面もあります。
それは、税金負担額にも資本金が関わってくるためです。
資本金額によって税務上の違いが生じるボーダーラインは、1,000万円と1億円です。
まず、1,000万円のボーダーラインで変わるのが消費税。
資本金1,000万円未満の会社の場合、設立から2年間は消費税の納付が免除されますが、1,000万円以上で起業すると、初年度から消費税の納付義務が生じてしまいます。
また、法人住民税の均等割についても、資本金1,000万円をボーダーラインとして変わります。
金額は自治体によりますが、例えば、東京都内で従業員が50人の会社の場合、資本金が1,000万円以下では7万円、1,000万円超では18万円と、倍以上の差があります。
資本金1億円のボーダーラインでは、さらに様々な違いが出てきます。
これは、資本金1億円以上の会社は「大企業」、1億円未満の会社は「中小企業」と定義されているためです。中小企業と大企業では、法人税の税率や交際費の経費計上、欠損金の繰戻還付など、税制上の扱いが根本的に異なります。
また、国や地方自治体が実施している中小企業向けの施策や補助金等も、資本金1億円をボーダーラインとして適用されなくなるものが多いです。
(4)許認可に資本金額が必要な業種も
最後に、業種ごとに定められている資本金額について解説します。
基本的に、会社設立は資本金1円から可能ですが、業種によっては一定額以上の資本金がないと、営業の許認可が取れない場合があります。
許認可に資本金の要件がある業種と金額は、以下の通りです。
- 人材派遣業:2,000万円
- 特定建設業:2,000万円
3.会社設立時の資本金が低すぎることによるリスク
先にもお伝えしましたが、資本金は最低1円からでも会社設立が可能です。
しかし、資本金が少なすぎるとデメリットが多く、思うように事業を運営できない可能性も。
資本金が少なすぎることで、起こりうるリスクについて知っていきましょう。
(1)融資が受けられない可能性がある
資本金が少ないと、まず銀行からの融資を受けにくくなります。
先にもお伝えした通り、資本金は会社の体力なので、資本金が少ないとすぐに倒産してしまいかねません。
回収の当てがない会社にお金を貸したくないのは当然で、金融機関からの融資を断られてしまう可能性が高くなります。
また、起業時に利用する方が多い日本政策金融公庫の新創業融資も、融資の条件に「創業資金の3分の1以上の自己資金を確認できること」があります。
(2)取引してもらえない可能性がある
よく知らない会社について調べる際、資本金を重視する人は多いです。
資本金が多ければ、それだけ会社の体力があるということで、もし事業がうまくいっていなくても長く運営を続けていけるという指標になります。
また、資本金が多いほうが事業への本気度が高いとみなされ、資本金が少ないと遊びの延長のように思われてしまいかねません。
新規起業でこれから顧客や取引先を確保しなければいけないという場合、信用を得づらくなり、事業拡大がしにくくなるのです。
(3)債務超過になりやすくなる
債務超過とは、債務者の負債の総額が資産の総額を超える状態ということです。
少なすぎる資本金で会社を設立すると、少額の借入をしただけですぐに債務超過になってしまいます。
4.資本金の払い込み方
最後に、会社設立時に資本金の払い込みを行う方法について解説します。
(1)発起人の銀行口座を用意
会社設立時には、まず発起人名義の個人口座を用意し、そこに資本金を入金します。
口座の開設はいつでも問題ありませんが、入金のタイミングは定款認証日よりも後である必要があるので注意してください。
入金を行ったら、会計処理を行います。
例えば資本金を300万円用意した場合、仕訳処理の方法は以下の通りです。
- 借方:現金 3,000,000円
- 貸方:資本金 3,000,000円
- 摘要:資本金の払込
(2)通帳のコピー作成
資本金の払い込みを行ったら、会社の設立手続きのためにその証明が必要となります。
その証明に必要なのが、通帳のコピーと払込証明書です。
通帳は、
- 表紙
- 表紙裏
- 振込内容が記帳されているページ
の3ヶ所をコピーします。
証明には支店名・支店番号、銀行印が必要なので、その箇所が含まれているかどうか確認しましょう。
また、振込内容が記帳されているページは、発起人の名前と金額にマーカーなどで印をつけておくと、会社設立時の手続きがスムーズになります。
(3)払込証明書を作成
最後に、以下の内容を記載した払込証明書を作成します。
- 日付
- 本店所在地
- 会社名(商号)
- 代表取締役の氏名
- 払込があった金額
- 払込があった株数
- 1株の払込金額
この7つの項目と、「証明書の左上」「代表取締役氏名の右側」の2ヶ所に会社代表印が必要となります。
資本金の証明をして登記が終わったら、いつでも資本金を使うことができます。
発起人個人の口座から法人口座へ資本金を移動し、初期費用などにあてましょう。
5.まとめ
資本金は開業後の経営の元手となり、対外的にも会社の持続力をあらわす重要なお金です。
最低1円からでも会社設立はできますが、開業後の経営を考えるとある程度まとまった金額を用意したほうがスムーズです。