税効果会計とは、会計上の利益額と税務上の利益額に差異がある場合、それを調整するために行う作業です。過剰または過少に算出された法人税等と、実際に支払うべき法人税等の金額の差を縮めるために税効果会計を行います。
税効果会計はなかなか理解が難しく、簿記の勉強でも躓く人が多い箇所です。詳しい計算方法などは法改正で変わっていきますが、大まかな目的やメリットがわかれば税効果会計が理解しやすくなります。
この記事では、複雑な概念である税効果会計の改正についてわかりやすく解説していきます。
目次
1.税効果会計とは?目的と概要
税効果会計とは、会計上の利益額と税務上の利益額に差異がある場合、それを調整するために行う作業です。
企業が支払う法人税などは、法人税法で定められた計算方法で算出した利益額に対して課税されます。しかし、企業が会計業務で算出する利益の計算方法は、法人税法が定めるものとは異なるため、企業の実際の業績は税務上の利益に反映されないことがあるのです。
そのため、過剰または過少に算出された法人税等と、実際に支払うべき法人税等の金額の差を縮めるために税効果会計を行います。
2.税効果会計適用の手順とメリット
まずは、税効果会計を適用するための手順と、税効果会計を行うメリットを解説します。
(1)税効果会計の適用手順
税効果会計はざっくり言うと、「会計上と税法上の利益の差異を算出」→「差異金額に法定実効税率をかける」→「調整額を算出し、法人税等の金額に足し引きする」という手順で行います。
ちなみに、税効果会計で差異と認められるのは、将来的に解消が見込まれる「一時差異」のみです。
- 会計上の利益と税法上の利益の一時差異を算出
- 「差異金額×法定実効税率」で、繰延税金資産・繰延税金負債を算出
- 算出された金額を、「法人税等調整額」として損益計算書に計上
- 法人税等調整額を、税法上算出された法人税等に加算・減算して納付
一時差異とは、会計上と税法上で認識が異なる「貸倒引当金繰入超過額」「減価償却費」「退職給付引当金」「賞与引当金」「繰越欠損金」などのことです。
将来的に解消されるものの、認識時期が異なることで生じる差異を、税効果会計で調節する目的があります。
また、計算上で使用する「法定実効税率」は、以下の計算式で求めます。
法定実効税率=
【法人税率×(1+地方法人税率+法人住民税率)+(法人事業税率+法人事業税標準税率×地方法人特別税率)】÷(1+事業税率+法人事業税標準税率×地方法人特別税率))
(2)税効果会計適用のメリット
税効果会計を適用するメリットは、企業会計上の損益と納付する税金額の関係がわかりやすくなることです。
税効果会計を導入することで、法人税等が課税される純利益がより会社の財政状態や経営成績の実態に近くなり、納付する税額も実態に即したものになります。
例えば、会計上は減価償却費に算入しているものの、税法上は上限金額を超えるため、損金不算入となっている経費がある場合などに税効果会計を導入するメリットがあります。
純利益の金額がより経営の実態に即した形になるため、利益に対して重すぎる税負担を避けることができるのです。
3.「税効果会計に係る会計基準」の主な改正ポイント
2018年2月に、税効果会計に係る会計基準の一部改正がありました。
改正前とは異なる税効果会計の扱いについて、ポイントを見ていきましょう。
(1)子会社の株式資産についての将来加算一時差異の取扱い
改正以前は、子会社株式等に係る将来加算一時差異は、一律で繰延税金負債を計上するというルールがありました。
しかし、改正後は個別財務諸表での子会社株式等に係る将来加算一時差異の扱いが以下のように変わっています。
親会社または投資会社が、その投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に売却等を行う意思がない:繰延税金負債を計上しない
それ以外の場合:繰延税金負債を計上する
(2)中繰延税金資産の回収可能性の判定基準
税効果会計では、会社を5つのカテゴリに分けて繰延税金資産の回収可能性を判断します。
分類1:繰延税金資産の全額について回収可能性がある
- 過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。
- 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。
分類2:一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性がある
- 過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。
- 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。
- 過去(3年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。
分類3:将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性がある
- 過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある。
- 当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。
分類4:将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、計上された繰延税金資産に ついては回収可能性がある
5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする
- 過去(3年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している
- 過去(3年)及び当期のいずれかの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない
上記に該当していても、
(A)将来において5年超にわたり課税所得が安定的に生じることを合理的に説明できるときは分類2に該当しているものとして扱う。
(B)将来においておおむね3年から5年程度は課税所得が生じることを合理的に説明できるときは分類3に該当しているものとして扱う
分類5:繰延税金資産の回収可能性はない
- 過去(3年)及び当期のすべてで、重要な税務上の欠損金が生じている
- 翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれている
2018年の改正では、分類2・3・4の基準や取り扱いについて変更がありました。
現在採用されているのは上記の基準なので、繰延税金資産の扱いにはこちらを用います。
(3)繰延税金資産および繰延税金負債の表示科目
改正前の税法では、繰延税金資産と繰延税金負債は、それに関わる資産や負債の内容に合わせて表示科目を選択する必要がありました。
2018年の改正以後は、繰延税金資産と繰延税金負債は以下のような表示科目で扱うことになっています。
繰延税金資産:投資その他の資産
繰延税金負債:固定負債
4.税効果会計の問題点
税効果会計を適用すると、実際の収益に基づいた税納付ができる反面、急激な経営状況の悪化に対応できません。
一時は一定の収益力があり、繰延税金資産を計上していた企業が、急激に業績を落として収益を上げられなくなると、将来法人税等を減算する予定が立たなくなってしまうのです。
5.まとめ
税効果会計は会計上と税務上の利益の差異を調整することが目的の作業です。
法人税等の課税所得が実際の経営利益と近くなり、実態に即した適正な納税ができるというメリットがあります。