給与計算は、従業員を雇用している全ての会社に発生する基本的な業務。しかし、その計算は単純なものではなく、税制や保険に関わる様々な知識が必要となります。
従業員が増えてくると、自社内での対応に手が回らなくなり、アウトソーシングを検討する経営者も多いでしょう。
目次
1.給与計算はアウトソーシングすべき?
まず、給与計算とはその名の通り従業員に支払う給与を計算する作業のこと。総支給額から税金・保険料・控除などを天引きし、実際に支払う手取り金額を計算します。
従業員の生活に直結する仕事なので、給与計算に間違いや遅れがあると信用問題となってしまいます。
(1)給与計算の手順
それでは、順を追って給与計算の手順を見ていきましょう。
総支給額を計算
まずは、給与計算のベースとなる総支給額を計算します。
給与の支払い方法や社内規定によっても詳細は異なりますが、「基本給」に「各種手当」を足したり、「各種控除」を引いたりする作業です。
基本給 | 契約上各従業員に対して定められている給与のベース金額 |
各種手当 | 通勤手当・住宅手当・残業手当・休日出勤手当など |
各種控除 | 欠勤控除・遅刻控除・早退控除など |
各種手当には、就業規則で各会社が決めているものと、法律で決められているものがあります。
税金・社会保険料を計算
次に、総支給額に基づいて税金・社会保険料を計算します。
一般的なサラリーマンの場合、給与にかかる税金・保険料は以下の通りです。
- 所得税
- 住民税
- 健康保険料
- 介護保険料(40歳以上のみ)
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
所得税や住民税は、給与の金額によって税率が変わり、「総支給額×税率」で計算します。累進課税制度を採用しているので、給与の金額が高くなると、税率も高くなります。
社会保険料は金額が毎年度更新され、都道府県によっても保険料が異なります。
また、船員・公務員・教員など、一般的な社会保険には加入せず、業種別の保険に加入する人もいます。
その他控除額を計算
控除額とは、個別の条件により税金の支払いが免除される金額のことです。
一般的なサラリーマンに適用される控除は、以下のものがあります。
- 基礎控除
- 所得控除
- 給与所得控除
- 扶養控除
- 配偶者控除
- 社会保険料控除
これらの控除額には課税されないので、税金の計算をするときは総支給から控除額を差し引いてから税率をかけます。
給与の支払いと記録をする
最後に、給与計算で算出された金額を、間違いがないよう各従業員に支払います。
もちろん支払って終わりではなく、後に記録を残せるよう台帳処理などの事務手続きも必要です。
(2)給与計算の難しさ
給与計算は従業員を雇っている会社全てに発生する基本的な業務ですが、内容はそう簡単ではありません。
なぜ給与計算は難しいのか、その理由を見ていきましょう。
①計算項目の多さと複雑さ
給与計算に必要な要素は大きく分けて「基本給」「税金・保険料」「控除額」の3つですが、その3つを細かく見ていくと非常にたくさんの項目に分かれています。
会社独自の規定・法令で決まっているものなど多様な種類があり、知識のない人がすぐに覚えられるものではありません。
また、税制度や保険料は毎年見直されるため、毎年度何らかの変更があります。社内で計算システムを構築してもすぐそれが使えなくなることもあり、順応するには大変な労力が必要なのです。
②ミスが許されない
先にも述べましたが、給与計算は従業員の生活に直結しているもの。少しでもミスがあると、従業員に不信感を抱かせて会社の信用が失墜してしまいます。
また、給与計算の遅れは給与の遅配にも繋がりますので、遅れも許されません。
複雑な業務にも関わらず、正確かつ迅速に作業を進めることが求められるのです。
③専門的な知識が必要
繰り返しになりますが、給与計算は複雑な計算が必要なので、なかなか簡単にこなせるものではありません。
ごく小規模な会社の場合は社長が自ら給与計算をしているケースも多いですが、ある程度規模が大きくなると経理の知識がある社員を雇わざるをえなくなります。
その上、一般的な税制の知識だけではなく、社内規定についても詳しくなる必要があるので、入社後の研修にも長時間を要してしまうのです。
④コストがかかる
給与計算は忙しさに波のある作業です。毎月の給与計算はもちろんありますが、年末調整が必要な12月や、新入社員が入社する4月には非常に業務量が多くなります。
特に小規模な会社では、ピーク時の業務量に合わせて人員を確保し、ピーク以外の時期も保持し続けるのは難しいでしょう。
情報漏洩などの観点から短期の派遣社員に任せるのも難しい仕事なので、給与計算に関わるコストに頭を悩ませる経営者は多いのです。
2.給与計算をアウトソーシングするメリット
それでは、給与計算をアウトソーシングすると、どのようなメリットがあるのかを考えていきましょう。
(1)正確に対応してくれる
給与計算のアウトソーシングを請け負うのは、給与計算に特化した専門チーム。知識を持った人員が、毎年の税改正などにも順応しながら正確に給与を計算してくれます。
自社の社員に一から教育するより、社員の負担を減らして、ミス・遅れを防ぐことができるのです。
(2)コストを削減できるケースも
給与計算をアウトソーシングすれば、雇用コストを削減できることも。経理事務の仕事の平均月収は27万円のため、給与計算をするために経理スタッフを雇用するとなるとそれなりのコストがかかります。
もちろん経理スタッフを雇用すれば給与計算以外の業務を任せることもできるので、単純な比較はできません。
しかし、ピーク時には多くの人員が必要になることなどを考えると、アウトソーシングの方が結果的に得になることも多いのです。
(3)本業に集中できる
社長や経理専門ではない社員が給与計算をしている場合、給与計算をしている時間は本来の業務ができません。給与計算は売り上げを生み出す仕事ではないので、社員にはなるべく本業に集中してほしいですよね。
給与計算を丸ごとアウトソーシングしてしまえば、業務時間の全てを本業に充てることができます。
それにより伸びる売り上げとアウトソーシングにかかる費用を比較すると、アウトソーシングの方がお得なこともあるのです。
3.給与計算をアウトソーシングするデメリット
給与計算のアウトソーシングは、実はメリットばかりではありません。
デメリット面も知って、自社に導入するべきかきちんと検討しましょう。
(1)追加費用がかかるケースも
アウトソーシングを請け負う会社は、クライアントとなる会社ごとに計算システムを構築して対応しています。
そのため、社内規定が改定になるとシステムにも変更の必要が出て、その作業に追加費用がかかることも。社内規定が何度も変わる会社だと、費用が嵩んでしまうケースもあります。
(2)社内で対応できる人材の育成ができない
給与計算を丸ごと外部に任せるということは、当然社内にノウハウが残らないということ。万が一、アウトソーシング会社が倒産したり、何らかの理由で急に契約を打ち切らなければいけなくなったりしたとき、給与計算ができる人がいないという状況に陥ります。
4.給与計算のアウトソーシングはどこにする?
それでは、給与計算のアウトソーシングを請け負っている会社には、どんな種類があるのかを見ていきましょう。
(1)会計事務所
給与計算のアウトソーシング会社として多いのが、会計事務所。ほとんどの会計事務所で、給与計算の請負業務を行なっていると思っていいでしょう。
非常に数が多いので、いきなり一社に決めず、数社で相見積もりを取るのがおすすめです。また、会計事務所なら給与計算以外にも決算など会計業務全般を依頼することもできます。
(2)社会保険労務士
従業員の数が多くなると、従業員の入退社や産休・育休の取得などが多くなり、保険にまつわる給与計算業務が多くなります。
そんな時は、社会保険の専門家である社会保険労務士に給与計算を依頼するのがおすすめ。十数人〜数百人規模の企業は、社会保険労務士に依頼するのが適しています。
(3)税理
小規模な会社でも、ほとんどは顧問税理士を依頼しています。
社員の人数が少ない場合、顧問税理士がサービスの一環として、低価格で給与計算を請け負ってくれることがあります。
スタートアップ企業で給与計算のコストを低く抑えたい場合、まずは顧問税理士に相談をしてみるのがおすすめです。
(4)アウトソーシングする場合の相場
給与計算のアウトソーシングサービスを利用する場合、かかる金額の相場は以下の通り。
- ・基本料金:無料〜20,000円
- ・追加料金(給与計算1人あたり):500〜1,000円
ほとんどのアウトソーシング会社で、サービス自体を利用するための「基本料金」に、1人あたりの給与計算作業にかかる「追加料金」が加算されるという料金システムを採用しています。例えば社員100人の会社の場合、相場料金は50,000〜120,000円くらいです。
なお、年末調整など追加業務が必要になる場合は、さらに追加料金がかかります。
(5)アウトソーシングする場合の必要な準備
給与計算をアウトソーシングするためには、以下のものを準備し、依頼する会社に提出します。
- 就業規則や賃金規程:基本給や昇給基準、各種手当など、会社ごとのルールを記した書類が必要です。
- 従業員名簿と賃金台帳:従業員の名簿と、扶養控除や手当にまつわる書類が必要です。不正をしている社員がいないとも限らないので、一定期間ごとに見直しましょう。
- タイムカードや出勤簿:従業員の勤怠を把握するため、出勤・退勤時間などを記録します。
5.給与計算のアウトソーシングを検討する基準
給与計算のアウトソーシングを検討する基準は、従業員の人数や、今いる人員に対する業務量です。
10人以下の小規模な企業など、すでに雇用している従業員の中で給与計算業務まで十分手が回っているなら、もちろんアウトソーシングを検討する必要はないでしょう。
従業員数が数十人〜百人を超えてくると、多くの企業が給与計算をアウトソーシングしています。
給与計算のために経理スタッフを雇用しても、従業員の増加とともに対応しきれなくなり、結局アウトソーシングに切り替えるというケースも。
6.給与計算をアウトソーシングせずに無料でする方法はある?
給与計算をアウトソーシングせず無料で行いたいなら、社長やすでに雇用している従業員に業務を割り振るしかありません。
しかし、経理の知識がない人材だと、わからないところは勉強しながらこなすしかないのでミスや遅れが発生することも。
コスト削減も大切ですが、給与計算は正確性が一番です。他の業務を圧迫しないためにも、会社の拡大とともにアウトソーシングを視野に入れて検討した方がいいでしょう。
7.まとめ
給与計算はどんな会社にも発生する業務ですが、内容はそう単純ではありません。
必要な知識量が多く、間違いは許されない業務なので、自社内で対応できなければアウトソーシングがおすすめです。