社会保険料の算定に不可欠な算定基礎届。毎年7月に、標準月額報酬を算定して定時決定を行う際に必要となります。計算自体は単純ですが、従業員の就業状況ごとにそれぞれ複雑なルールがあり、提出期限も短いため、慣れていないとなかなか難しいです。
目次
1.算定基礎届の基礎知識
まず、算定基礎届とは何なのかという基礎知識を解説いたします。
算定基礎届は社会保険料や保険給付の計算に必要な書類です。
(1)算定基礎届とは
算定基礎届は従業員の社会保険料や保険給付の計算に用いられる書類です。
まず、社会保険は従業員の報酬に基づいて保険料や給付額が算出されます。そしてその金額を会社と従業員で折半し、毎月支払うことになるのです。
しかし、実際に支払われる報酬は年間のうちで推移するため、毎回保険料を算出しなおしていると膨大な手間がかかります。そこで、年に一度「標準月額報酬」という大まかな月額報酬の指標を算出し、これを社会保険料算定の基礎とします。
この標準月額報酬を決定する作業が、「定時決定」。そして、定時決定の届け出に必要な用紙が、算定基礎届です。
(2)算定基礎届の計算方法
算定基礎届に記載する標準月額報酬の計算方法は、以下の通りです。
原則:4・5・6月に支払った賃金の合計÷3 |
欠勤やシフト勤務などでいずれかの月が17日未満の勤務だった従業員や、対象月に休業していた従業員の計算式は以下の通りです。
- 4月の報酬支払基礎日数が17日未満で、5・6月の報酬支払基礎日数が17日以上の場合:5・6月に支払った賃金の合計÷2
- 4・5月の報酬支払基礎日数が17日未満で、6月のみ報酬支払基礎日数が17日以上である場合:6月の報酬額
- 5月入社の場合:5・6月に支払った賃金の合計÷2(定時決定の算定基礎となる期間が「その事業所で継続して使用された期間」に限られるため)
- パート・アルバイトなどの短時間就労者で、4月から6月の報酬支払基礎日数が、どの月も17日に満たなかった場合:15日以上17日未満の月を対象月として算出した額
- 一時帰休の場合:休業手当をもとに算出した額(定時決定後に休業が明けた場合は、随時改定)
(3)算定基礎届の対象者
算定基礎届の対象者となるのは、社会保険の被保険者かつ、その年の7月1日時点で勤務している従業員です。
(4)算定基礎届の提出期限
算定基礎届の提出期間は、毎年7月1日~7月10日です。
2.算定基礎届を書く
それでは、具体的に算定基礎届の書き方を見ていきましょう。
(1)算定基礎届の用紙を入手する
算定基礎届は、毎年6月上旬~下旬に送られてきます。
送付されてくる書類は、以下の3種類です。
- 被保険者報酬月額算定基礎届
- 被保険者報酬月額算定基礎届 総括表
- 被保険者報酬月額算定基礎届 総括表附表
もし届かない場合は、日本年金機構に連絡して取り寄せたり、日本年金機構のホームページからダウンロードしたりすることが可能です。
(2)算定基礎届の対象者は?
先にもお伝えした通り、算定基礎届の対象者は7月1日時点で雇用している社会保険の被保険者です。正社員・パート・アルバイトなど、雇用の種別は問いません。育児休業や介護休業などを取得して休業している人、長期欠勤をしている人も含みます。
ただし、6月1日以降に被保険者になった人は、社会保険の資格取得時にすでに標準報酬月額が翌年8月まで決まっているため、定時決定の手続きは必要ありません。また、昇給・減給・長期欠勤などで4~6月に支払われた報酬と年間平均の報酬が大きくかけ離れている人は、7月に随時改定を行うため算定基礎届の対象にはなりません。
(3)退職者・中途入社・休職者の取り扱いは?
退職者・中途入社・求職者の取り扱いは、以下の通りです。
退職者 | その年の6月30日以前に退職した人は不要。7月1日以後に退職する人は4~6月の標準報酬月額を算定します。 |
中途入社 | 中途入社で4~6月いずれかの月に1ヶ月分の給与が支給されていない場合は、その月を除いた金額で算定します。 |
休職者 | 4~6月の期間を全て休職していた人は、休業手当に基づく標準報酬月額を算定します。4~6月のうちのいずれかの月で休職し、他の1~2ヶ月は通常の勤務をした場合は、休職した月を除いて標準報酬月額を算定します。 |
標準報酬額の求め方
それでは、具体的な例を挙げて標準報酬額を計算していきます。
(例)社員Aさんに、4月は25万円、5月は26万円、6月は24万円の報酬を支払った場合 (25+26+24)÷3=25 → Aさんの標準報酬月額=25万円 |
とても単純な計算ですが、ここでいう「報酬」とは労働に対する賃金のことです。労働に対する賃金と見なされないものは、実際に支払った金額に含まれていても報酬からは除外されます。
報酬に含まれないもの | 見舞金・解雇予告手当・退職手当・大入袋・交際費・出張旅費・・傷病手当金慶弔費・労災保険の休業補償給付・年3回以下の賞与 |
また、現金ではなく現物支給されたものの中にも、報酬に含まれるものもあります。
報酬に含まれる現物支給 | 通勤定期券・回数券・食事・食券・社宅・寮・被服・自社製品など |
例えば、先ほどの社員Aさんが、毎月の賃金に加え、4月に通勤定期券3万円分と結婚祝い金3万円を受け取っていた場合、以下のような計算になります。
{25+3(通勤定期代)+26+24}÷3=26 → Aさんの標準報酬月額=26万円
3.算定基礎届を提出する
最後に、算定基礎届の提出方法について解説していきます。
(1)提出・添付書類は?
定時決定で提出する書類は、以下の4種類です。
- 被保険者報酬月額算定基礎届
- 被保険者報酬月額算定基礎届 総括表
- 被保険者報酬月額算定基礎届 総括表附表(必要な場合)
- 被保険者報酬月額変更届(7月改定者がいる場合)
算定基礎届には従業員個人ごとの標準報酬月額を記入し、総括表には事業所の被保険者の状況や報酬などをまとめて記入します。
(2)提出方法
算定基礎届の提出は、書類が送付されてきたときに同封されている返信用封筒で郵送するのが一般的です。また、管轄の年金事務所担当窓口に直接提出することも可能です。
電子申請(e-Gov)で提出する場合には、e-Gov電子申請アプリケーションをインストールすると、そこで書類作成から提出までを済ませることができます。
(3)提出期限
先にも触れましたが、算定基礎届の提出期限は毎年7月1日~7月10日です。用紙が届いてから提出期限までは1ヶ月ほどしかないため、注意してください。
(4)内容を訂正したい時は?
もし、算定基礎届に記載する内容を間違えてしまったときには、ただちに年金事務所や健康保険組合に連絡をしましょう。内容に間違いがあったことを伝え、正しく訂正したものを再提出する必要があります。
訂正書類を作成する時は、まず用紙の上部に大きな字で「訂正」と記入します。金額に間違いがあった場合は、上の段に正しい金額を記入し、下の段には間違えた金額を赤で記入します。
4.まとめ
算定基礎届の計算自体は単純で、作成にあまり手間取らない書類です。しかし、休業・中途入社などで満額の給与を支払っていない場合には、それぞれ複雑なルールがあります。報酬に算入される手当・されない手当なども複雑で、慣れていないとわかりにくいかもしれません。