会社設立をしたら、速やかに社会保険の手続きを行い、健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険に加入する義務があります。しかし、ケースによっては、会社設立後も社会保険に加入しなくて良い場合もあります。
目次
1.会社設立したら社会保険加入は義務!
会社設立をしたら、社会保険に加入することが法律で義務付けられています。
「保険料を払いたくないから入らない」「従業員が少ないから入らなくていい」ということはありません。
たとえ社長一人の会社であっても、会社という形式をとる以上、社会保険には加入しなければいけないのです。(ただし、役員報酬が月額約12,000円未満の場合は年金事務所側から加入を断られるケースもあります。)
もし未加入が発覚した場合、過去2年分の保険料を遡って徴収される可能性があります。実際の現場はケースバイケースなので一概にこうなるとはお伝え出来ませんが、具体的な案件についてご質問いただければ、弊所の社労士がご回答致します。
会社設立をしたら、速やかに保険加入の手続きを行い、適切に保険料を支払いましょう。
2.会社設立時の社会保険加入手続きと必要書類
それでは、会社設立時に行うべき社会保険加入手続きと、その必要書類について解説していきます。ちなみに、社会保険の加入手続きはいつからできるかというと、会社の設立登記が終わった後すぐです。
それぞれの届出期限までに、必ず手続きを完了できるようにしましょう。
手続きは自分で行うこともできますが、事業準備などで忙しい場合には社会保険労務士などのプロに委託することも可能です。
(1)健康保険・厚生年金
まず、健康保険と厚生年金への加入は、 会社設立から5日以内に、会社所在地を所轄する年金事務所に届け出る必要があります。2009年までは社会保険事務所という名称が使われていましたが、現在は「年金事務所」に改称しているので注意してください。
以下で解説する必要書類は、全て日本年金機構のホームページから入手できます。
提出方法は、郵送・窓口持参・オンライン申請の3つがあります。
健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 「健康保険・厚生年金保険新規適用届」は、新規起業時や個人事業主が法人成りした時など、初めて健康保険・厚生年金に加入する時に提出します。 適用届けには、会社の登記簿謄本(提出日の90日以内に発行されたもの)の原本を添付します。 設立登記が終わったら、すぐに登記簿謄本を発行しておきましょう。 ちなみに、実際の会社の住所が登記した場所と異なる場合には、会社の賃貸借契約書のコピー・公共料金の領収書など、会社の所在地が証明できる書類が必要です。 |
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 | 「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」は、被保険者となる資格を取得するための書類です。 その時会社に在籍している、社長・役員・従業員まで、被保険者となる人全ての分を提出します。 新規加入後、新たに従業員を雇用した場合には、その都度増えた従業員の分を提出する必要があります。 |
健康保険被扶養者(異動)届 | 「健康保険被扶養者(異動)届」は、被保険者に扶養家族がいる場合に提出する書類です。 被扶養者届と被扶養者の健康保険被保険者証を添付する必要があるため、従業員にこれらの写しを提出するよう求めましょう。 ちなみに、扶養者の年間所得が103万円以上130万円未満の場合は、「課税(非課税)証明書」も添付する必要があります。 |
保険料の計算方法 | 健康保険・厚生年金の保険料は、被保険者の標準報酬月額によって決まります。給与の「等級」ごとに保険料額が決められているので、その金額を納付します。 例えば、東京の会社で標準報酬月額が20万円の場合、健康保険料は17等級で「19,740円」、厚生年金保険料は14等級で「36,600円」となります。 ちなみに、保険料は被保険者と会社で折半して支払うので、会社が納付するのは上記の金額の半額です。 |
(2)雇用保険
雇用保険は従業員を雇っている会社が加入します。社長や役員だけの会社には加入義務がありません。雇用保険に加入する場合には、以下の書類を会社がある地域を管轄するハローワーク(公共職業安定所)に提出します。
それぞれの書類はハローワークのホームページから入手可能で、提出方法は直接提出・電子申請の2種類です。
雇用保険適用事業所設置届 | 「雇用保険適用事業所設置届」は、会社が雇用保険適用事業所であることを届け出るための書類です。 提出期限は従業員を雇用した翌日から10日以内、会社設立時から従業員がいる場合には設立日の翌日から10日以内です。 この書類には、登記簿謄本の原本を添付して提出します。 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 「雇用保険被保険者資格取得届」は、各従業員の被保険者資格を取得するための書類です。 従業員を雇用した月の、翌月10日までに提出します。従業員を複数人雇用する場合には、人数分の提出が必要です。 賃金台帳や労働者名簿、出勤簿などの提出が求められる場合もあるので、事前にハローワークに確認しておきましょう。 |
(3)労災保険
最後に、労災保険も従業員を雇用した場合に加入義務がある保険です。労災保険関係の届出は、会社所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。
それぞれの申請書は、労働基準監督署のホームページから入手可能です。
窓口に直接持参か、電子申請で提出を行います。
保険関係成立届 | 「保険関係成立届」は、従業員を雇用した日の翌日から10日以内に提出します。 会社の登記謄本原本・労務者名簿・賃金台帳・出勤簿を添えて提出しましょう。 従業員が10人以上いる会社の場合、「就業規則届」も必要です。 |
労働保険概算保険料申告書 | 「労働保険概算保険料申告書」は、労災保険の保険料について申告する書類です。 提出期限は、保険関係が成立した日から50日以内となっています。 前の項目で解説した保険関係成立届と一緒に提出し、50日以内に納付するというのが一般的です。 |
3.会社設立時の社会保険についてのよくあるQ&A
最後に、会社設立時の社会保険手続について、よくある質問とその回答をご紹介します。
(1)パートやアルバイトの社会保険は?
パートやアルバイトであっても、雇用保険の加入要件を満たしている場合には社会保険に加入させる義務があります。まず、パート・アルバイト従業員の1ヶ月の労働日数と1週間の労働時間が正社員の3/4以上だと、社会保険加入義務が発生します。
そうではなくても、下記の条件を満たす場合には社会保険への加入が必要となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 雇用期間が1年以上見込まれる
- 賃金の月額が8.8万円以上
- 学生でない
- 常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めている
(2)設立後にすぐに社会保険に加入できない場合は?
社長1人の会社でなかなか経営が軌道に乗らず、自分自身に給与を支払えないということもあるでしょう。先にお伝えしたように、役員報酬が月額12,000円以下だと社会保険への加入を断られることがあります。
そのような事情で、会社設立後すぐに社会保険に加入できない場合には、代替の制度を利用します。
健康保険に関しては「国民健康保険」か「協会けんぽの任意継続」、年金は「国民年金保険」も加入しましょう。
(3)社員が自分一人でも加入すべき?
社員が自分一人であっても、一定額以上の報酬を得ている限りは社会保険に加入する義務があります。
国民健康保険より社会保険の方が保険料は高いですが、会社設立をすれば社会保険料を損金算入できるため、税制上お得な面もあります。
(4)社会保険料を節約する方法はある?
社会保険料は、先にお伝えしたように標準報酬月額を基準として算定されるので、自分や従業員に支払う給与が少なければ保険料も下がります。また、パートやアルバイトは労働時間等で保険加入が義務でない場合もあるため、それを利用して保険料を節約することは可能です。
例として、以下のような方法が考えられます。
- 役員報酬を必要以上に高くしない
- 自宅や社員宅を社宅扱いにし、給与から家賃分を差し引く
- パートやアルバイトを活用し、社員を増やさない
4.まとめ
会社設立をしたら、社会保険の加入が義務になります。
社員が自分一人であっても加入義務がありますが、報酬が著しく少ないなど、加入できない事情がある場合には国民健康保険・国民年金を継続することもあります。