病院の経理は、大きく収入と支出(経費)に分けられます。収入を仕訳する際には、保険収入・自費収入・雑収入の3つの勘定科目を使用します。
保険収入は病院の大半を占め、各種健康保険による診療全般の収入を指します。自費収入は医師が自由に金額を設定できる自由診療全般や、労災保険・自賠責保険による収入を指します。雑収入はその他物品売上による収入を指します。
病院の経理は少々特殊であり、より専門的な知識と実務経験が求められます。
目次
1.病院における収入の経理のポイント
病院の経理は、大きく収入と支出(経費)に分けられます。
この内、収入を仕訳する際に使用する勘定科目が保険収入・自費収入・雑収入の3つになります。
保険収入は病院の大半を占め、各種健康保険による診療全般の収入を指します。窓口で患者本人が支払う収入と、社会保険診療報酬基金などから振り込まれる収入(保険請求)の2種類があります。
いずれも保険収入で仕訳しますが、保険請求の入金は2ヶ月程度遅れる点に注意が必要です。
自費収入は医師が自由に金額を設定できる自由診療全般や、労災保険・自賠責保険による収入を仕訳する際に使用します。主に保険収入以外の診療収入と考えておくと良いでしょう。
そして雑収入はその他物品売上による収入を指します。
例えば歯科医が歯ブラシ・歯磨き粉を患者に販売した場合、雑収入で売上を計上します。
2.仕訳可能な経費と勘定科目の種類
病院で計上できる経費は非常に多いので注意しましょう。
主に以下の経費があり、それぞれ細かく仕訳する必要があります。
- 診療材料費
- 外注技工料
- 租税公課
- 水道光熱費
- 通信費
- 旅費交通費
- 給与賃金
- 福利厚生費
- 損害保険料
- 消耗品費
診療材料費は医薬品や治療に必要な材料の購入費用を、外注技工料は外注した検査料・技工料を計上する際に使用します。租税公課は切手代や印紙代、固定資産税や事業税の損金処理に、水道光熱費は電気代や水道代などを計上します。
通信費と旅費交通費は見分けが難しいですが、通信費は電話代やインターネットの回線利用料、旅費交通費はバスなどの交通費、学会参加費用などが該当します。
給与賃金は、医師や看護師(アルバイト等含む)の給与や、各種手当てを仕訳するための科目です。福利厚生費は従業員の社会保険料、雇用保険料、労災保険など保険料が該当し、医院で負担する分のみを計上します。
そして、損害保険料は医院の火災保険や医療事故に備えた各種保険料を、消耗品費はボールペン、コピー用紙などの事務用品や日常的な消耗品の購入費用を仕訳する際に使う勘定科目です。
ただし、購入価格が10万円を超える消耗品(PCなど)は資産として計上し、毎年減価償却を行う必要があります。
3.医業における損益計算書
損益計算書とは?
病院の収入や利益を確認する上で重要となる書類の一つに「損益計算書」という書類があります。
この「損益計算書」とは、病院の一定期間(暦年や一事業期間)における儲けや損失などの経営成績を表す計算書類です。
収益から費用を差し引いて利益または損失を計算します。
もう一つ、本業(診療行為)により生じた利益と臨時的な利益(不動産等売却益)が同一に表示されては本来の病院の経営状態を的確に判断することが困難となるため、その利益や損失がどのようにして生じたかを明らかにする書類でもあります。
大きくは、医業収益・医業費用、医業外収益・医業外費用、臨時収益・臨時費用に区分されます。さらに、医業の場合は内容に応じて3つの収益、4つの費用、5つの利益に区分して表示します。
(1)3つの収益
- 保険収入
- 自由診療収入
- 雑収入(①と②以外の収入)
(2)4つの費用
- 医業原価
- 販売費および一般管理費
- 営業外費用
- 特別損失
(3)5つの利益
- 医業総利益・・・「粗利益」とも言われます。医業収入から、材料費等の原価を差し引いた利益を表します。
- 営業利益・・・医業総利益(粗利益)から販売費・一般管理費を差し引いて求めます。病院の本業の利益を表します。
- 経常利益・・・病院の経常的な営業活動から得られた利益を表します。
- 税引前当期利益
- 当期純利益・・・1年間の最終的な利益を表します。
4.収益科目の定義等
次に、損益内訳書のうち、収益科目の細かな定義や具体例を見ていきましょう。
医業収益
①外来診療収益
外来患者の診療及び療養に係る収益を計算する勘定科目です。例としては、医療保険・公費負担医療・労災保険公害医療・自動車損害賠償責任保険・介護保険等・自費診療などがあります。
②入院診療収益
入院患者の診療及び療養に係る患者窓口負担金や各支払機関請求分を計算する勘定科目です。例としては、①と同様な医療保険・公費負担医療・労災保険公害医療・自動車損害賠償責任保険・介護保険等・自費診療などです。
③保険予防活動収益
保険適用外に係る収入を計算する勘定科目です。例としては、妊産婦保健指導等保健予防活動・健康診断・人間ドック・予防接種等の収益があります。
④その他の医業収益
診断書等の文書料など前出に属さない医業収益を計上する勘定科目です。例としては、施設介護・短期入所療養介護以外の介護報酬、各市町村の事務手数料・文書料等があります。
医業外収益
①受取利息
預貯金の利子、公社債の利子などを計上する勘定科目です。例としては、預貯金の利子、日本国債の利子、貸付金利息などがあります。
②受取配当金
法人からの配当金、投資信託の収益の分配などを計上する勘定科目です。例としては、配当金や信用金庫の分配金等があります。
③患者外
給食収益・・・例としては、患者以外の方に食事を提供した際の収益などがあります。
臨時収益
病院が保有していた固定資産を売却した時の売却益やその他臨時的な収益を計上する勘定科目です。災害保険金や医療事故保険金収入等もこちらで計上します。
5.費用科目の定義等
次に、費用科目の細かな定義や具体例を見ていきましょう。医業に関わる費用は「材料費」「給与賞与」から「一般的な事務経費」まで多岐に渡るため、主だったものをご紹介します
材料費
①医薬品・診療材料費
医薬品や診療材料の購入額(消費額)を計上する勘定科目です。
②医療消耗器具備品費
診療、検査、看護などの医療用の器械や器具のうち、固定資産計上基準額に満たない少額なもの、又は1年以内に消費するもの計上する勘定科目です。
※間違いやすい例・・・材料仕入先から自社で使用する物品を購入した場合は、材料仕入には該当せず、備品消耗品費や接待交際費といった科目で処理を行います。
③給食用材料費
患者給食のために使用した食品の消費額を計上する勘定科目です。
※期末に残っている医薬品や診療材料、貯蔵品などは、一定の方法によりその在庫の額を確認・集計して棚卸資産として貸借対照表の資産の部に計上しなければなりません。
給与等
①給与・賞与
病院で直接業務に従事する役員や従業員に対する給与や手当、賞与を計上する勘定科目です。ここでいう手当とは、役職手当、住宅手当、家族手当、時間外手当、通勤手当等をいいます。
また、賞与については、支給済みのものと支給する金額が確定している賞与の額も含みます。
②法定福利費
病院で直接業務に従事する役員、従業員に対する社会保険料、労働保険料などの事業主負担額を計上する勘定科目です。例としては、健康保険料、厚生年金、雇用保険料、労働災害補償保険料の事業主負担分があります。
委託費
外部に業務を委託した際の費用を計上する勘定科目です。
例としては、
- 検査委託費…医業活動に係る検査業務を外部に委託した場合の費用
- 給食委託費…給食業務を外部に委託した場合の費用
- 寝具委託費…寝具委託業務を外部に委託した場合の費用
- その他委託費…上記以外の委託費清掃委託費、保守委託費など
設備関係費
病院の土地・建物や救急車(車両)に関する費用を計上する勘定科目です。
例としては、
- 減価償却費…有形固定資産及び無形固定資産の取得原価の期間配分額
- 器機賃借料…器機等のリース料、レンタル料など
- 地代家賃…土地、建物などの賃借料
- 修繕費…機械の整備、部品交換等、軽微な損傷の修繕費用など
- 固定資産税等…固定資産税、都市計画税等の租税公課
- 車両関係費…救急車、検診車、巡回自動車などの燃料や保険料など
研究・研修費
研究費…研究材料や研究用図書の購入や研究活動に係る費用を計上する科目です。
※試験研究費の税額控除・・・余談ですが、政策的な配慮から、青色申告法人には「試験研究に関する費用」のうち一定額が税額控除の対象となるものもあります。
国税庁参考URL
・研究開発税制について(概要)
https://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5441.htm
6.まとめ
ご覧いただいた通り、病院の経理には一般企業と異なる勘定科目や会計処理が散在しています。また、病院は公共性が強く、医療を通じて社会の発展に大きく寄与する機関でもあります。
そのためにも、自院の経営・営業成績をきっちり把握するために、まずはしっかりした会計処理を行い、正確な損益計算書を初めとした計算書類を作成していきましょう。
7.経理代行・経理派遣も検討を
規模の小さな病院では、医師が経理を兼ねる場合が大半を占めます。大きな病院では別途経理担当を雇っている場合も多いですが、人件費が膨らむため注意が必要です。
また、病院の経理は少々特殊であり、より専門的な知識と実務経験が求められます。
負担を減らすためにも、税理士による経理代行や経理派遣サービスを利用してみてはいかがでしょうか。経理のプロである税理士へ一任できるため、適正かつ信頼性の高い経理処理が可能になります。