給与計算は税金や社会保険について様々な知識が必要な業務。そんな給与計算の実務に就くには、資格は必要なのでしょうか。
今回は、給与計算の実務の流れや、必要な知識についてご紹介いたします。
1.給与計算での実務内容は?
まずは、給与計算の実務内容をステップごとにご紹介いたします。
給与計算の実務には大きく分けて、
- 従業員に支払う給与の算出
- 税金・保険料を算出・納付
という2種類の作業があります。
(1)従業員に支払う給与の算出
給与計算の実務の最初のステップは、従業員一人ひとりの勤怠状況を把握すること。
労働日数・労働時間・時間外労働・遅刻や早退などの状況を確認しましょう。
そのデータに基づき、労働時間に対する賃金を算出します。
その後、会社ごとに定められている手当(通勤手当・住宅手当・家族手当など)を加算して、給与の支払い総額を決定します。
(2)税金・保険料を算出・納付
給与計算の実務には、税金や保険料を算出、天引きして支払い金額を決定するまでの作業が含まれています。
一般的なサラリーマンの場合、給与計算の際に総額から差し引く税金・保険料は以下の通りです。
- 健康保険料
- 介護保険料(40〜64歳の従業員のみ)
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
- 所得税
- 住民税
社会保険料に関しては、加入している保険組合によって保険料率が定められているため、標準報酬月額に保険料率をかけて算出します。
所得税は累進課税制度が採用されているので、収入や控除の金額によって税額が変動。住民税は従業員が住んでいる自治体によって税率が異なります。
給与総額から税金・保険料を引いたものが、いわゆる「手取り」。これらの内容を記載した給与明細を作成し、給与支給と同時に従業員に配布します。
その後、台帳に支払い内容を記録し、天引きした税金・保険料の納付を行います。
(3)ミスが及ぼす影響は大きい
給与計算は従業員の生活に直結している実務。万が一ミスや遅れがあると、従業員に会社への不信感を抱かせてしまいます。
また、給与計算の中でも税金・保険料の計算ミスがあった場合、追徴や訂正申請が必要になります。
気づかず放置していると脱税の疑いをかけられる可能性もあり、給与計算の実務にミスがあると、会社自体に大きな影響を及ぼしてしまうのです。
2.給与計算前に行うべき実務
それでは、実際に給与計算を始める前に、事前準備として必要な実務を見ていきましょう。
1.従業員情報の確認 | 給与計算の実務を行うためには、従業員情報の確認が不可欠。給与計算や支払いには、従業員ごとに以下の情報が必要になります。
通勤経路や扶養家族については、申請内容次第で給与を多く受け取る不正も可能となってしまいます。そのため、従業員情報は、定期的に見直し・更新をしていきましょう。 |
2.支払い方法の確認 | 給与の支払い方法は、会社ごとに異なります。 月ごとに銀行振込という会社が多いですが、日払いや週払い、振込ではなく手渡しというケースもあるでしょう。 従業員ごとに希望の方法が違うなど、支払い方法が数種類ある場合もあるため、給与計算の実務を始める前に確認しておく必要があります。 |
3.労働協定の確認 | 就業規則や給与規定が定まっていないと、そもそも給与計算ができません。給与計算は事業開始直後から必要になる実務なので、起業の際や従業員を初めて雇い入れる前に決定しておく必要があります。 給与計算のために取り決めが必要な項目は、以下のようなものがあります。
また、国が定めている労働基準法についても、人事担当者や給与計算担当者が知っておく必要があります。 |
3.給与計算における実務の流れ
それでは、給与計算における実務の流れを説明していきます。
(1)勤怠項目・支給項目・控除項目を算出
給与計算には、大きく分けて3つの項目が関わってきます。
- 勤怠項目
- 支給項目
- 控除項目
給与計算の大まかな計算式は、「勤怠項目+支給項目−控除項目」です。
勤怠項目 | 勤怠項目というのは、実際の労働時間に関して支払う賃金のことです。 勤怠項目には「基本給」「時間外手当」の2種類があり、時間外手当は労働基準法で定められた割増率で計算します。 |
支給項目 | 支給項目は、労働時間に関わらない手当などのことです。通勤手当や家族手当、住宅手当など、会社によって規定が違います。 従業員一人ごとに、該当する手当を加算します。 |
控除項目 | 控除項目は税金や保険料など給与総額から差し引くもの。 社宅の家賃や制服代、食事代なども、給与から天引きしている場合は控除項目に当てはまります。 |
(2)支払い業務
給与総額から控除項目を引き、支払い金額が確定したら支払い業務を行います。
給与計算の根拠となったデータから給与明細を作成し、支払いと共に配布しましょう。
決定した額を、振り込み・手渡しなど決められた方法で従業員に支払うのみなので、実務自体が難しいというわけではありません。
しかし、実際にお金が動く作業なので、間違いが許されない部分でもあります。
(3)支払いの後処理
従業員の給与は、もちろん支払って終わりではありません。支払いの記録を後に残せるよう、賃金台帳を記入して保管します。
また、従業員の給与から天引きした税金・保険料を納付する作業も給与計算担当者が行うことが多いです。
(4)給与計算の年間スケジュール
給与計算の実務は、毎月の支払い金額算出だけではありません。
給与計算の実務に関わる年間スケジュールを、月ごとにまとめてみました。
1月:税務署に法定調書を提出、市区町村に給与支払報告書を提出
2月:特になし
3月:4月の新規採用者・異動者の給与決定、4月に64歳以上になる従業員を把握(雇用保険料が免除となるため)
4月:新入社員・異動社員の給与設定、税率・保険料に改定があれば変更を反映
5月:4月に入社した社員の社会保険料控除開始
6月:住民税の新年度控除額を登録、賞与の計算(6月に賞与支給がある場合)
7月:労働保険の年度更新(保険料計算)、社会保険は算定基礎届提出、4月昇給者の随時改定(月額変更届)
8月:4月昇給による随時改定者の社会保険料改定
9月:厚生年金保険料率の変更(変更後の保険料が控除されるのは10月に支払う給与から)
10月:7月に算定基礎届を提出した社員の社会保険料改定
11月:年末調整の準備(社員に案内し、必要書類を配布する)
12月:賞与支給、年末調整実施
4.給与計算の実務には資格が必要?
給与計算の実務に資格なスキルをご紹介致します。
(1)専門性の高い仕事だが資格は不要
給与計算の実務は専門性の高い仕事ですが、特別な資格は必要ありません。
自社内で給与計算を行なっている会社では、経営者や経理スタッフ、人事スタッフなどが行なっているケースが多いです。
(2)税務・労務の知識が必須
給与計算の実務には、税金や社会保険の幅広い知識を用います。さらに手当や就業規定は会社によって異なるため、会社内部の知識が不可欠です。
また、従業員の個人情報を扱う仕事のため、コンプライアンスもしっかりした人材が担当する必要があります。
そのため、資格が必要ないとは言っても、給与計算の担当者にはしっかりと教育や研修を行なった方がいいでしょう。
(3)実務能力検定試験とは?
給与計算は資格がなくても担える業務ですが、民間の検定で「給与計算実務能力検定試験」というものがあります。
これは、その名の通り給与計算に関する知識を問い、給与計算の実務能力を証明する試験です。
検定には1級と2級があり、試験は年2回。自社社員に検定を受けさせることで知識が身につくため、会社負担で経理スタッフに資格取得を求めるケースも多いです。
(4)給与計算代行のメリットとデメリット
給与計算は自社内で行う以外に、税理士や社労士にアウトソーシングするという方法もあります。
給与代行サービスを利用するメリット・デメリットは以下の通り。
メリット
- 専門家による正確な給与計算
- 自社内の業務負担を減らせる
- コスト削減になる場合も
デメリット
- コストがかかる
- 自社内に給与計算のノウハウが育たない
- 情報漏洩のリスクも
5.まとめ
給与計算の実務には、複雑な税金・保険の知識が不可欠です。
特に資格が必要な仕事ではありませんが、実務能力を証明する「給与計算実務能力検定試験」という検定があります。