「個人事業主」と「法人」は、似ているようでかなり違います。
今回は、独立・起業をする時、個人事業主と法人のどちらを選べばいいかを徹底解説。2つの税制上の違いや開業・設立方法、法人化する時の損益分岐点などをまとめました。
目次
1.個人事業主と法人の違い
自分でビジネスを始める時は、「個人事業主」と「法人」という2つの選択肢があります。
まずはそれぞれの違いについて知っていきましょう。
(1)開業・設立方法
個人事業主と法人は、まず開業・設立方法が違います。
個人事業主 | 法人 |
個人事業主として開業する手続きは、「開業届」を税務署へ提出するだけです。設立にお金はかからず、手続きも1日で済みます。 | 法人の設立には、「株式会社」と「合同会社」の2種類があります。 かかる費用は、株式会社が約24万円、合同会社は約10万円です。どちらも「定款」と「登記」という手続きが必要となり、定款は公証人役場・登記は法務局や税務局で行います。 設立に必要な書類も個人事業主より多く、手続きには1週間ほどの時間がかかります。 |
用語にも違いがある
細かいことですが、使う用語にも個人事業主と法人では違いがあります。事業を行う時の店名や事業者名のことを、個人事業主は「屋号」、法人は「会社名」と呼びます。
また、所得計算をするための期間の呼び方は、個人事業主は「会計期間」、法人は「事業年度」です。会計期間は12ヶ月と定められていますが、事業年度は自由に決められるという違いもあります。
(1)税金
支払う必要がある税金も、個人事業主と法人では違います。
①個人事業主
個人事業主が支払う税金は、「個人事業税」「消費税」「所得税」「住民税」の4種類です。確定申告は、「白色申告」もしくは「青色申告」で行います。
②法人
法人が支払う税金は、「法人税」「法人事業税」「地方法人特別税」「法人住民税」「固定資産税」「消費税」の6つ。会社によっては、利子や配当金に課税される「所得税」や、「自動車関連税」も支払う必要があります。
確定申告は、「法人税申告書」で行います。
③所得税と法人税
個人事業主にとっての「所得税」にあたるものは、法人では「法人税」です。どちらも個人事業主または法人の所得に対して課税されるのは同じですが、その税率が異なります。
個人事業主の場合、所得の金額にしたがって段階的に税率が上がり、「5~45%」の所得税が課せられます。対して法人は、所得が800万円以下・以上の2段階で税率が決まり「15%または23.9%」。
仮に所得が800万円だった場合、個人事業主には「23%」法人には「15%」の税金が課せられ、個人事業主の方が割高になります。
④相続税
また、個人事業主の事業資産や預金は相続税の課税対象ですが、法人の資産は相続税の課税対象になりません。
そのため、相続税を節税するために、ある程度の資産を持った個人事業主は法人化することもあります。
(2)社会保険
最後に、個人事業主と法人の保険の違いを比較しながら説明いたします。
個人事業主 | 法人 |
個人事業主は、社会保険ではなく国民健康保険と国民年金に加入します。 | 法人では、従業員はもちろんのこと、経営者や役員も会社の社会保険(健康保険・厚生年金)に加入します。ただし、会社の社長は労働基準法における労働者ではないため、労働保険(雇用保険・労災保険)には加入できません。 |
2.個人事業主のメリットとデメリット
それでは、個人事業主のメリットとデメリットを解説していきます。
個人事業主のメリット | 個人事業主のデメリット |
個人事業主のメリットは、開業の手続きが簡単なことです。先の項目でも解説した通り、開業届さえ出せばその日から個人事業主になれます。 確定申告の手続きも、法人税の申告に比べてかなりシンプルです。 | 個人事業主のデメリットは、税制の優遇が法人より少ないこと。所得税(法人税)の税率は、所得がおよそ500万円を超えると個人事業主の方が高くなります。 赤字の繰り越しは、個人事業主は青色申告でも3年、法人は9年です。 また、社会的な信用も法人より個人事業主の方が低いです。法人としか取引をしない企業があったり、求人も法人より集まりにくかったりなどのデメリットがあります。 |
3.法人のメリットとデメリット
次に、法人のメリット・デメリットを見ていきましょう。
法人のメリット | 法人のデメリット |
法人のメリットは、個人事業主より節税の面で優れていることです。法人税は所得税に比べて累進性が低く、同じ所得でも税率に大きな差が出ます。 また、経費として認められる範囲も法人の方が広く、役員報酬などで利益調整をすることも可能です。 さらに、先にも触れましたが法人は赤字を9年繰り越すことができ、万が一赤字が出た時も経営の立て直しがしやすいです。
保険を経費に計上できることや、株式を発行して資金調達できることも法人ならではのメリットです。 また、個人よりも会社の方が社会的信用度も高く、銀行からの融資や求人に対する応募も集まりやすいというメリットもあります。 | 法人のデメリットは、設立や法人税申告の手続きが複雑なこと。設立に際して用意する書類も多いですし、資本金や定款・登記の費用も必要です。 また、個人事業主の確定申告は簿記の知識がない素人でも可能ですが、法人税の申告はかなり複雑です。税理士など専門家の手を借りないと難しいでしょう。
さらに、株式を発行したり、投資家から資金調達したりすると、株主や投資家の意向を経営に反映させなければいけないこともあります。 |
4.個人事業主から法人化へ
個人事業主として開業し、経営が軌道に乗ったら法人化するケースも少なくありません。法人化するタイミングや、法人化のメリットを解説していきます。
(1)どんな時に法人化?
一般的に、法人化するタイミングは「売上が1,000万円を超えたとき」と言われています。これは、売り上げが1,000万円を超えると、翌年から消費税の納税義務が発生するからです。
消費税の納付を免除されるためには、「2事業年度前、または前事業年度開始から6ヶ月間の売上が1,000万円以下」である必要があります。
法人化した場合、個人事業主としての売上は計上されないため、法人化から2期目までは消費税の納税が免除されます。そのため、消費税の免税業者でいる期間を伸ばすために、売上が1,000万円を超える見通しがたったら法人化する事業者が多いのです。
ただし、法人税(所得税)の節約を考えるなら、ボーダーラインとなる所得は500万円程度です。
(2)法人化するメリット
法人化するメリットは、以下の通りです。
- 社会的信用度が上がる
- 個人事業主より税制上優遇される
- (売上1,000万円以上の場合)免税事業者でいる期間が伸びる
- 社会保険に加入できる
- 株式を発行して資金調達ができる
(3)法人化を考える損益分岐点
法人化をする損益分岐点は、「売上が1,000万円」「課税所得が500万円」のどちらかを超えるタイミングです。
所得税・法人税の税率だけで見ると、課税所得330万円以上から所得税の税率の方が高くなります。しかし、法人化した時に加入する社会保険の負担を考える場合、およそ課税所得500万円が損益分岐点です。
また、免税事業者でいられる期間を伸ばすために、売上が1,000万円を超える見込みになる時は法人化を考えた方がいいでしょう。
5.サラリーマンと個人事業主-両立は可能?
会社で副業が認められているなら、サラリーマンと個人事業主の両立をすることは可能です。ただし、会社にばれたくない場合には、ばれないための工夫をする必要があります。
(1)両立のメリット
サラリーマンと個人事業を両立すると、以下のようなメリットがあります。
- 収入が増える
- 事業収入は保険料の算定に含まれない
- 休みの日や退勤後の時間を有効活用できる
- 仕事以外のスキルを磨ける
- 独立の下準備ができる
- 会社が業績悪化・倒産しても心配ない
サラリーマンと個人事業や起業の両立は、技術的には可能です。当然ですが収入も増え、将来的に独立したい場合はその下準備ができるなど、メリットがたくさん。
ただし、副業禁止の会社だと、懲戒解雇や減給の対象になることもあるため注意してください。
(2)会社にバレる?
会社の規定では「副業OK」となっていても、実際に上司や同僚にばれると気まずいという人も多いでしょう。「マイナンバーで副業がばれる」という噂がありますが、マイナンバーは重要な個人情報のため、会社がマイナンバーから副業の調査をすることはできません。
ただし、個人事業主としての収入を確定申告して住民税が課税されると、会社にバレてしまう恐れがあります。これは、副業の収入があると給与のみに課税された額より多くなるためです。
(3)会社にバレないためには
会社に副業との両立がばれたくない場合、住民税の金額を会社に知られるわけにはいけません。これは、確定申告の際、第二表の住民税の徴収方法の選択欄の「自分で納付」にチェックを入れることで回避できます。
こうすると、給与分の住民税の納付書は勤務先に、個人事業分の住民税は自宅に納付書が届くため、ばれることなく副業ができます。
6.まとめ
個人事業主は簡単な届け出で誰でも開業することができるのがメリット。法人の手続きは煩雑ですが税制上で様々な優遇措置があり、節税したい場合に有利です。
個人事業主と法人の損益分岐点は「売上1,000万円」「課税所得500万円」です。