毎月何気なく受け取っている給与明細。しかし、給与明細に書かれているそれぞれの項目が、どのように計算されているか知っていますか?
今回は、給与計算の方法とその準備、リスク管理などについて解説していきます。
目次
1.給与の計算方法は会社により異なる?
給与計算の方法を知る前に、まずは前提として給与計算の基本を知っておきましょう。
給与計算の方法は会社によって違い、また従業員の生活に直結する業務特有のリスクも伴います。
(1)計算方法は会社により異なる
給与計算の方法は会社によって異なります。
それは、給与の支払い方法や会社ごとに規定している手当などが会社ごとにバラバラだから。そのため、今回ご紹介する給与計算の方法はあくまで一般的な例で、全ての会社にこれが当てはまるとは限りません。
(2)給与計算のリスク
給与計算はどんな会社にも発生する基本的な業務ですが、実は特有のリスクも伴います。従業員の生活に直結することだからこそ、少しでも計算ミスがあると従業員からの信用を失ってしまうのです。
勤怠の記録システムが万全でないと、残業代の未払いなどの問題が起こってしまうこともありますね。
また、給与計算の遅れは給与の遅配にも繋がるので、毎月期限内に済ませることが必要です。そして、給与計算をするためには、家族や保険の情報、マイナンバーなど、従業員の個人情報を用います。
(3)給与計算に必要な知識
給与計算に伴うリスクを防ぐためには、予防策の準備が必要です。
人の手が関わる以上ケアレスミスは起こり得ますが、システムがきちんと整っていればリスクを最小限に抑えることができるのです。
労務 | まずは、給与計算の担当者が「労働基準法」や「就業規則」などの知識をきちんと理解していること。 小規模な会社でも、なあなあにならないよう明確なルールが必要です。国の法令に則して、就業規則と給与規定をきちんと定めましょう。 |
税務 | 給与計算には、所得税や住民税といった税金も絡んできます。給与計算の担当者は、国の税制度についても精通する必要があるのです。 源泉徴収税の計算ミスや、控除漏れがあった場合は追徴や訂正申請が必要となるので、税金関連のミスは何としても防がなければいけません。 |
リスク管理 | 最後に、情報漏洩などに対するリスク管理です。給与計算の担当者による故意の流出はもちろん、ハッキングなどによる情報漏洩にも注意しなければいけません。 社員を雇用する際は契約条件に守秘義務の項目を入れたり、経理情報を扱うPCは一段とセキュリティに気を配ったりする必要があります。 経理データの持ち出しも、社内規定などで禁止しておいたほうがいいでしょう。 |
2.給与の計算方法は7段階
それでは、給与計算の方法をステップごとに解説していきます。
給与計算には、全部で7つの段階があります。
(1)勤怠状況を確認・集計
まずは、タイムカードなどの情報から各従業員の勤怠状況を把握します。集計期間中の労働時間について、従業員一人ずつの状況を確認しましょう。
次の3つの項目に分けて集計します。
- 労働日数
- 労働時間
- 時間外労働
(2)総支給額を決定
次に、労働時間の情報から総支給額を決定します。
時間外労働には法令で定められた割増率があるので、それに則した割増率で計算しましょう。
さらに、会社独自の手当(通勤手当・家族手当・役職手当など)があれば、ここで加算します。
- 基本給
- 時間外手当
- 各種手当
この3つの合計が「総支給額」となります。
(3)控除額を計算
次に、給与から天引きする税金や保険料などの「控除額」を計算します。
一般的なサラリーマンの給与にかかる税金・保険料には、以下のものがあります。
- 雇用保険料
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 所得税
- 住民税
扶養家族の数などにより非課税所得がある場合もあるので、この計算式は従業員の個々の状況によって変わります。
(4)手取り金額を計算
「総支給額」から「控除額」を引いたものが、「手取り金額」となります。従業員に実際に支払うのは、この手取り金額です。
(5)給与明細作成・賃金台帳への記録
ここまで計算した内容を元に、給与明細を作成します。
給与計算した数字を給与明細のフォーマットに当てはめるだけなので、難しい作業ではありません。
また、支払いの記録を後に残せるよう、賃金台帳にも記入します。
(6)支払・給与明細配布
給与明細の内容に従い、各従業員に給与を支払います。
その際、必ず給与明細も一緒に交付します。給与明細の交付は所得税法で定められている義務なので、どんな会社・雇用形態でも必ず交付しなければいけません。
(7)社会保険料、税金納付
最後に、社会保険料や税金を、会社が従業員に代わって納付します。
社会保険料は会社と従業員が折半する決まりなので、納付額は全従業員の給与から差し引いた控除額のちょうど2倍となります。
3.日割りの給与を計算する方法
次に、月収ではなく日割りで給与計算する方法をご紹介いたします。
(1)就業規則を確認
実は、日割り給与の計算方法は法律で定められていません。そのため、各会社が定めている就業規則や賃金規定に従うことになります。
下で挙げるのは、一般的な例です。
(2)月の途中で入社した場合
月の途中で入社した場合、一般的な計算ルールは以下の3パターンが考えられます。
1.暦日基準 | (給与)÷(その月の日数)×(所属日数) |
2.所定労働日基準 | (給与)÷(その月の所定労働日数)×(出勤日数) |
3.月平均の所定労働日基準 | (給与)÷(月平均の所定労働日数)×(出勤日数) (月平均の所定労働日数)=(年間の所定労働日数)÷12 |
各種手当については、日割りする根拠がないものは月途中の入社でも満額支給されます。ただし、弁当代や通勤手当など1日分の金額が明確な場合には、満額ではなく日割り計算となる場合もあります。
(3)月の途中で退職した場合
月の途中で退職した場合、月の途中での入社と計算ルールは基本的に同じです。
ただし、退職の場合は上の計算方法に加え、出勤しなかった日数分の給与を満額から差し引くという計算方法もあります。日額の求め方は、入社のケースと同じ3パターンです。
退職は円満な形だけではない可能性もありますが、どんな形であれ給与計算期間に少しでも労働した従業員には給与を支払う必要があります。
(4)その他の給与計算の方法
上記の他にも、「日給月給制」や「変形労働時間制」などの制度を導入している会社があります。
日給月給制
日給月給制とは、給与形態のひとつ。
あらかじめ定められている月の給与から、欠勤・遅刻・早退などで労働しなかった時間分をそこから差し引くという計算方法です。
具体的な計算式は、以下の通りです。
- (給与の総額÷1ヵ月の通常就労日数)×勤務日数+残業給与=支給額
日給月給制では手当も含めて1ヶ月分の給与となっているので、欠勤などがあった場合には手当も含めて減額されます。
変形労働時間制
変形労働時間制とは、労働時間を月・年単位で調整することで、時間外労働を調節する制度のことです。
労働基準法では、「週40時間・1日8時間」以上の労働を時間外労働と定めています。これが変形労働時間制を採用すると、例えばある週に60時間働いても、次の週の労働時間が20時間になれば時間外労働は発生しません。
週単位だけではなく月単位でもこれが可能なため、多く働いた月の給与が増えない代わりに、長期休暇をとった月も満額の基本給が貰えるということに。
繁忙期と閑散期に波がある業種で、導入されていることが多い制度です。
4.給与の計算前の準備について
最後に、給与計算をする前に必要な準備について解説します。
(1)就業規則・給与規定を整備
就業規則・給与規定が定まっていないと、そもそも給与計算ができません。
取り決めが必要な項目は、以下のようなものがあります。
- 始業と終業の時刻、休憩時間の規定
- 時間外労働・深夜労働・休日労働時間に関する割増率(法令で規定あり)
- 会社独自の時間外計算があるかどうか(宿直手当、夜勤手当、代休時の割増率など)
- 時間外計算の単位
- 日割り計算の方法
- 給与の計算方法・締め日と支払い日
(2)従業員情報を収集・更新
従業員個人の情報も、給与計算には不可欠です。
給与計算に必要な情報は、以下の通り。
- 給与の振込口座
- 通勤経路と交通費
- 扶養家族の人数
- 勤怠管理
(3)適切な保険の加入
従業員を雇用する企業では、従業員を守るために保険に加入しなければいけません。
正社員以外のパートやアルバイトも、収入金額や労働時間などが条件に当てはまれば保険に加入させる義務があります。
企業が加入すべき保険には、以下の種類があります。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 社会保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険など
5.まとめ
給与計算の方法は、法令で定められている部分と会社が独自に規定している部分があります。とても多くの知識が必要となるので、見た目以上に大変な作業です。
また、従業員の生活や個人情報に関わることなので、ミスや遅れ、情報漏洩は許されません。