「新創業融資制度」とは、日本政策金融公庫が実施している、無担保・無保証で利用できる「創業融資」の一つです。起業時の資金調達方法にはいろいろありますが、一番メジャーなものが、この公的創業融資を利用する方法です。
創業後まもない期間は実績が無いため、民間金融機関からの通常融資を受けることが難しくなります。そこで、創業融資で資金調達することで、元手がない人でも起業にチャレンジすることができます。
この記事では、新創業融資制度の詳しい内容や、利用要件についてわかりやすく解説いたします。
目次
1.新創業融資制度の概要
新創業融資制度とは、日本政策金融公庫が実施している融資制度です。
創業前、または創業間もない企業が対象で、無担保・無保証で利用できるのが最大の特徴となっています。
まずは、新創業融資制度の限度額、利用要件など基本情報について解説していきます。
(1)融資限度額
新創業融資制度の実質的な融資限度額は、「自己資金の3倍」と言われており、実際に受けられる融資額は、平均で300万円です。
新創業融資制度の融資限度額:3,000万円 (内訳)開業資金1,500万円、運転資金1,500万円です。 |
全ての企業がこの上限額の融資を受けられるわけではありません。
(2)利用できる要件
新創業融資制度を利用するには、以下の3つの要件を全て満たす必要があります。
- 創業の要件
- 雇用創出等の要件
- 自己資金要件
それぞれの要件について、詳しく解説していきます。
①創業の要件
日本政策金融公庫が定めている「創業の要件」は、以下の通りです。
- 新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方
つまり、これから会社を設立したり個人事業主として事業を始める方、または開業してから2年以内の方が対象となります。
②雇用創出等の要件
次に、「雇用創出等の要件」は、以下の通りです。
- 雇用の創出を伴う事業を始める方
- 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方
- 産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方
- 民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方
等の一定の要件に該当する方(既に事業を始めている場合は、事業開始時に一定の要件に該当した方)
③自己資金要件
最後に、「自己資金要件」は以下の通りです。
- 新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方
ただし、
- 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方
- 産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方
等に該当する場合は、本要件を満たすものとします。
(3)返済について
次に、融資を受けたあとの返済について解説いたします。
①返済期間・利率
新創業融資制度は、合わせて利用する融資制度によって返済期間が異なります。実は、新創業融資制度は単体では利用できず、日本政策金融公庫が提供している他の融資と合わせて利用する必要があるのです。
例えば、新規開業資金と合わせて新創業融資制度を利用する場合、偏差期間は以下の通りです。
- 設備資金:20年
- 運転資金:7年
ただし、この期間は最長の場合なので、ケースによって返済期間の設定は変わってきます。
次に、新創業融資制度の基準利率は、「年利 2.46~2.75%」です。こちらはあくまでも基準利率なので、個々のケースによって変動します。最大の低減が受けられると、「年利 1.06~1.35%」まで下がります。
ただし、この数字は2020年5月現在のもので、金利は市場動向によって変動します。
実際に借り入れを行う際は、必ず日本政策金融公庫の公式サイトなどで確認しましょう。
②担保・保証人
新創業融資制度は、無担保・無保証で利用できます。これが新創業融資制度の最大の特徴です。
ただし、法人が希望する場合、その代表者が連帯保証人になることも可能です。
その場合は、利率が0.1%低減されます。
(4)必要書類
新創業融資制度の申し込みに必要な書類は、以下の通りです。
- 借入申込書
- 創業計画書
- 見積書(設備資金を借り入れする場合)
- 履歴事項全部証明書(法人の場合)
- 不動産の登記謄本または登記事項説明書(担保を希望する場合)
これらの書類を作成し、日本政策金融公庫に提出すると、申し込み完了となります。
2.新創業融資制度のメリット・デメリット
それでは、新創業融資制度のメリット・デメリットを見ていきましょう。
(1)メリット
新創業融資制度のメリットは、主に以下の3つです。
- 無担保・無保証・連帯保証人不要
- 融資実行までがスピーディ
- 自己資金割合の要件が緩め
新創業融資制度の最大のメリットは、無担保・無保証・連帯保証人不要で創業資金を借りられることです。元手がない人や保証人を用意できない人も可能なため、借入さえできれば誰でも起業ができます。
また、開業時、新創業融資制度と並んでよく利用されるのが自治体の「制度融資」ですが、この制度融資は融資実行まで2ヶ月ほどかかるというデメリットがあります。
その点、新創業融資制度は3週間~1ヶ月で融資が実行されるので、すぐにお金が必要な時にも適しています。
新創業融資制度の利用には自己資金が必要ですが、その金額は「創業資金の1/10」と少なめです。
(2)デメリット
次に、新創業融資制度のデメリットは2つあります。
- 融資上限が3,000万円
- 金利がやや高め
まず一つ目のデメリットは、融資金額に「3,000万円」という上限があることです。3,000万円以上の資金が必要な、大規模な事業には向いていません。さらに、先にもお伝えしましたが3,000万円もの融資が実行されることはほぼなく、新創業融資制度の平均融資額は300万円ほどです。
また、新創業融資制度は無担保・無保証で利用できるという特性上、金利が高めです。
もちろん、一般の金融機関や消費者金融よりは圧倒的に安いですが、同じ日本政策金融公庫で担保ありの融資を利用するよりは、基準利率で0.6~1.2%ほど高いです。
3.新創業融資制度審査のポイント
最後に、新創業融資制度の審査でチェックされるポイントを解説します。
(1)自己資金の比率や内訳
繰り返しになりますが、実質的な新創業融資制度の最大融資額は「自己資金の3倍」です。
自己資金を多く持っていれば、それだけ高額融資を引き出しやすくなります。
また、自己資金が多ければ運転資金が潤沢で、長く事業を維持できるということになります。
日本政策金融公庫にとって、新創業融資制度は貸し倒れリスクが高いので、自己資金の高さは信用力に繋がって審査を通りやすくなるのです。
新創業融資制度の審査を通るには、最低100万円は自己資金を用意しておきましょう。
ちなみに、自己資金を多く見せかけたいからといって、他の金融機関から借りたお金を「自己資金」と偽ってはいけません。
これは「見せ金」といい、違法行為なので絶対にしないようにしましょう。
また、自己資金は毎月給料が口座に入金されていった結果貯まった資金をいいます。例えば、残高がほとんどない口座に100万円を入れたとしても、それは自己資金にはカウントされないことを覚えておきましょう。
日々コツコツ働いて給与が振り込まれた結果、貯まったお金を自己資金としてカウントしますので、融資申し込みの際には注意が必要です。
(2)起業する業種・業態の経験値
融資を受ける上で、自己資金の他に「起業する業種・業態の経験値」もしっかり審査されます。
例えば、テナントを借りて飲食店をオープンしたい場合、飲食店勤務などの経験値がどれくらいあるかが重要です。具体的には、どういうポジションで何年経験があるのかということです。
「ポジション」としてはいろんなケースが考えられますが、アルバイトやパートとしてだったのか、店長まで任されていたのかなどです。当然、店長としての経験であれば、同じ1年でもしっかりした経験として評価されるでしょう。
また、「経験年数」としては最低でも3~5年は必要でしょう。このくらいの経験値がないとその分野で起業して大丈夫だろうかという見方をされることがあります。逆に、5年を超える経験値があれば、経験値で大きな問題になることはまずないでしょう。
(3)創業計画書の内容
新創業融資制度の審査では、創業計画書の内容も詳しくチェックされます。うまくいく見込みが薄い事業計画では返済の見込みが立たないため、審査を通らなかったり、融資を減額されてしまったりします。
そのため、実現可能な事業計画を練り、その魅力をしっかり伝えられる創業計画書を作るのが大事です。
頭で考えた計画だけではなく、具体的な調査データやテスト運営の結果などを記載すると、より説得力が増します。
4.まとめ
新創業融資制度は、無担保・無保証で利用できる、起業家にとってありがたい制度。
要件も緩めなので、誰でも起業に挑戦できます。