負担付贈与とは、一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与です。何らかの条件を付け贈与するため、注意しなければなりません。
今回は具体事例として、実際に弊社にあったご質問とご回答について、Q&A方式で掲載します。
前回のコラムでご紹介した「負担付贈与」が主な論点になります。
Q:ある夫婦は離婚を決めているが、現在、住宅ローン付きの住宅をどちらも夫名義で所有している。離婚による夫から妻への財産分与として、住宅・住宅ローンともに妻名義にすることを検討している。財産の移転のタイミングで様々な税金が発生するのではないかと懸念しており、それが離婚のタイミングにより大きくもなり、小さくもなるのではないかとのお問合せです。 また、離婚後、当該物件には妻だけが居住(物件は売却しない)し、妻の母が住宅ローンを離婚後すぐに一括完済する予定である。検討事項として、3者(夫、妻、妻の母)の課税額が一番少なくなる方法を考察する。 |
A:夫から妻へ居住用財産の名義変更をすることについて、下記に「1.手続きいただきたい順番」、「2.課税関係」をまとめました。
1.手続きいただきたい順番
まず、住宅ローン付きの居住用不動産の夫から妻への財産分与について、下記の手順で進めてください。 - 現在の住宅ローンの残額を確認する。⇒約2,500万円である。
- 現在の不動産(建物+土地)の売却価格(売却時価)を調べる。
- 住宅ローンの残債約2,500万円が不動産の売却価格より低いか(アンダーローンか)、高いか(オーバーローンか)を調べる。
- 夫から妻への不動産移転の手続き⇒住宅ローンの負担者移転の手続きも含む。
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婚姻期間中に住宅ローンで家を購入した場合、名義に関係なく共有財産になり、財産分与の対象になります。
住宅ローンが残っている場合は、「現在の住宅の売却時価-住宅ローン残高」が財産分与の対象です。
妻が住宅をもらい受ける場合は、他の財産で分与を調整する必要があります。
下記で、それぞれの手続きの内容を詳しくご説明します。
➀住宅ローンの正確な残額を確認
まず、住宅ローンの正確な残額を確認しましょう。残高は、借入先金融機関に問い合わせることで確認できます。
➁不動産(建物+土地)の売却価格を確認
不動産の売却価格を確認する方法として大きく下記3つがあります。
ⅰ)不動産鑑定士に鑑定を依頼する。
不動産の価値を調べてもらう場合、不動産鑑定士に依頼するのが最も正確です。資金的に余裕がある場合、不動産鑑定士に依頼しましょう。
ⅱ)ざっくり確認したい場合、不動産売却査定サイトを利用する。
手軽に確認したい場合、インターネット上にある売却査定サイトを利用してください。「不動産 売却」と検索するとたくさんの広告が表示されます。
自分の不動産がおおよそいくらくらいで売却できるのか把握することができます。
3~5つのサイトで査定価格を調べてください。どのサイトでも査定金額がおおよそ似たような金額になれば、平均値を採用しても問題になることはないでしょう。
ⅲ)不動産業者に本格的に訪問査定してもらう。
正確な査定価格を把握したい場合、不動産業者に訪問査定してもらいましょう。不動産業者に依頼すれば、不動産の査定価格を書いた査定書を無料で作ってもらえます。
正確な不動産価格を知るためには、この査定書を数社からとり、その平均値を採用するといった方法もあります。
➂不動産の査定価格(売却価格)と住宅ローンの残額のどちらが大きいかを確認する。
不動産査定を踏まえて、以下のいずれの状態になるか判断します。
- アンダーローン・・・不動産の価格が住宅ローンの残額より大きい状態
- オーバーローン・・・住宅ローンの残額が不動産の価格より大きい状態
アンダーローンの状態かオーバーローンの状態かは財産分与の内容を決定する上で非常に重要です。
➃妻が不動産に住み続けることを前提にした場合
ⅰ)不動産を妻名義に変更し、残りの住宅ローンを夫のままとする場合(参考)
住宅の所有権は妻に、残りのローンは夫が支払います。アンダーローンの場合、不動産が実質的にプラスの財産となります。
この場合、原則として不動産の価格から住宅ローンの残高を差し引いた金額の約半分について妻から夫に金銭の支払いが必要となる可能性があります(本来は自宅の価値は半分ずつ夫婦が取得できるため)。
また、不動産に抵当権が付いている場合、夫が住宅ローンの支払いを滞らせてしまった場合のリスクがあります。
ⅱ)不動産の名義と住宅ローンの債務者を妻にする。
この場合、妻が毎月の住宅ローンを支払うことになりますが、前提として、妻の収入・資産状況などを金融機関によって夫から妻へ債務者が変更してもよいか審査されます。
よって、当事者の合意だけではなく金融機関の許可が必要になります。住宅ローンの債務者は夫婦間で自由に変更できません。借入先金融機関の審査に通ることが必要です。
銀行の審査に通過した場合に初めて名義変更が可能です。
不動産に抵当権が付いているときは銀行も比較的柔軟に対応してくれることが多いですが、そうでない場合は、住宅ローンを完済するまで銀行側が名義変更を了承してくれないこともあります。
銀行の審査に通らず名義変更できない場合は、「ローンを完済した後は妻の名義に変更する」等、しっかりと同意をしておくことが大切です。
ただ、登記請求権の時効の問題もありますので、弁護士や司法書士などに事前にきちんと相談したほうがよいでしょう。
ちなみに、ⅰ)と同様に、アンダーローンの場合、不動産が実質的に+の財産となるので、不動産の価格から住宅ローンの残高を差し引いた金額の約半分について妻から夫に金銭の支払いが必要となる可能性があります。
備考➀
住宅ローンについて、夫が債務者で妻が連帯保証人となっていたが、財産分与の話し合いで妻が連帯保証人を外れることになった場合について。財産分与に関する話し合いで、今後妻が責任を負わない事となった場合、銀行と妻との連帯保証契約を解除する必要があります。
この場合にも、連帯保証契約を解除するかは夫婦間の話し合いで決められるものではなく、銀行の決定が必要となります。
なお、連帯保証契約を解除する方法は、住宅ローンの借り換えをする、別の方に連帯債務者・連帯保証人になってもらう等の方法があります。妻が連帯保証人となっている場合、銀行にお話をされて、上記の方法を採ることができるか確認してみましょう。
2.課税関係
(1)ケース1
➀妻の課税関係(アンダーローンを前提にします。)
ⅰ)「贈与税について」
下記国税庁のHPにあるように、財産分与時に原則として贈与税はかかりません。
参考:国税庁HP「No.4414 離婚して財産をもらったとき」
例えば、夫婦間で1対1の財産分与をした場合、確実に贈与税はかかりません。ただ、財産分与の金額が「多すぎる場合」は贈与税がかかります。
具体的に税務署にも問い合わせた結果、具体的に「〇対〇」であれば贈与税がかかるのか、またはいくら以上であれば贈与税がかかるのかは全く指標がありません。税務職員も回答が難しいのが現実です。
リスクがあることは前提ですが、財産分与で贈与税がかかるケースはめったにない・まずないということでいいのではないかと考えています。
否認する側も、根拠が抽象的過ぎて否認しにくいのではないでしょうか。極端な場合の予防線を張っているだけのように感じます。
ⅱ)「不動産取得税について」
また、基本的に不動産取得税も支払う必要はありません。
贈与税の場合と同じで、財産分与は本来夫婦それぞれが持つべき財産の清算であり、新たに財産を取得したわけではないという考え方のためです。
ただ、これも贈与税の場合と同じで不動産を含む財産分与として譲り受ける財産が相場に比較して多すぎるという場合や財産の清算ではなく慰謝料や離婚後の扶養を目的とする場合は、例外的に課税される可能性があります。さらに、財産分与を受けた不動産に財産分与を受けた方が居住するときには、既存住宅(中古住宅)を取得した場合の不動産取得税の軽減を受けられることが多いので、不動産取得税が問題になることは少ないです。
例えば、平成9年4月1日以降に新築された中古住宅であれば、固定資産評価額が1,200万円の部分までは不動産取得税がかからない等あります。
➀のまとめ
妻に贈与税と不動産取得税は基本的にはかかりません。しかし、取得後、不動産の登録免許税や取得した後の固定資産税はかかります。
②夫の課税関係
下記国税庁のHPにあるように、財産分与時に夫に譲渡所得税(所有期間が5年超であれば長期譲渡所得)がかかる可能性があります。
参考:国税庁HP「No.3114 離婚して土地建物などを渡したとき」
「課税長期譲渡所得金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除」
分与した時の土地・建物の売却時価が譲渡所得の譲渡価額になります。つまり、財産分与時のマンションの売却時価はやはり必要な情報になります。
ただし、譲渡取得税には、マイホーム(居住用財産)を売ったときに所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで特別控除ができます。この特例の適用要件として、相手方との関係が、親子や夫婦など特別な間柄でないことが必要です。
つまり、離婚成立前に財産分与してしまうと親族への譲渡となり、3,000万円の控除が使えないので注意が必要です。
また、適用を受けるためには、譲渡をした年分の確定申告書に適用を受けるための必要事項の記載と住民票その他の必要書類の添付が条件とされています。
つまり、夫は確定申告する必要があります。
➁のまとめ
夫婦間で不動産の名義変更をする場合、離婚を前提にした分与であれば離婚「後」に財産分与を原因として名義変更するべきです。
③妻の母が住宅ローンを一括で支払った場合
上記の流れから、離婚「後」の財産分与により妻へ住宅・住宅ローンの名義変更を受けることが理想です。
ここで、銀行の審査に通過し住宅ローンの支払義務が妻に移転しても、約2,500万円の住宅ローン残額を母が一括で完済することは避けるべきです。
自身の子供が住宅を購入するための資金援助であれば、年間110万円に加えて700万円まで贈与しても贈与税が課税されない特例(住宅取得等資金贈与の非課税制度。下記備考参照。)等ありますが、これらの特例は全て適用外です。住宅ローンの返済に充てるための金銭の贈与は対象外であるためです。
つまり、贈与税の対象になります。
仮に2,500万円の一括贈与を行った場合、妻に8,105,000円の贈与税がかかります。
④妻の母が毎年110万円ずつ子(妻)に贈与して、その金銭で住宅ローンを支払った場合
この場合、基礎控除額110万円以内の贈与であるため贈与税がかからないと思いがちですが、贈与税の課税対象になる可能性があります。
注意すべきポイントは、「あらかじめ、まとまった資金を贈与するつもりだった(定期贈与)」と認定されると、まとまった資金に対して贈与税が課せられる可能性があるということです。
定期贈与とは、例えば、「1,500万円を贈与したいが、贈与税がかかるので、100万円を15回に分けて毎年贈与する」というような場合です。
「形式的」には年間110万円の範囲内で非課税となるはずですが、最初から1,500万円を贈与する目的がある場合には、1,500万円に対して贈与税が課せられます。
つまり、今回のケースも最初から約2,500万円を贈与するものと認定された場合、③と同様に8,105,000円の贈与税がかかります。
下記国税庁のホームページにも分かりやすく記載されています。
参考:国税庁HP「No.4402 贈与税がかかる場合」
➄効果的な節税方法
具体的な土地・建物の売却価格が不明なので、アンダーローンかオーバーローンかは分かりませんが、妻からお母様へ負担付贈与(土地・建物と住宅ローンを一括で贈与)をするのがいいでしょう。
この方法は2,500万円そのものに対して贈与税が課税されるのではありません。
土地・建物と住宅ローンの差額に対して贈与税が課税されるので③、④と比較した場合、大きな節税になります。
また、将来的にお母様の相続財産に対して相続税がかかってきたとしても住宅に対しての課税は「小規模宅地の特例」などを活用していけば税金はかなり少なくすることができます。
備考➁
「住宅取得等資金贈与の非課税制度について」
自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭の贈与を受けた場合に、直系尊属(実の両親など)から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税の規定は適用され、住宅ローンの返済に充てるための金銭の贈与は対象外です。
(2)ケース2
離婚「後」、元夫から元妻の母に負担付贈与(土地・建物+住宅ローンを一括で贈与)する場合、このケースでは、ケース1➁でお話したように、離婚「後」に負担付贈与を行い、元夫が確定申告をすることで元夫には課税されません。3,000万円の特別控除が使えるためです。
また、ダイレクトに元妻の母に贈与することで不動産の登録免許税などの手数料が元妻を通すよりも減額できます。
元妻の母についての結論はケース1と全く同様で、2,500万円そのものに対して贈与税が課税されることはなく、土地・建物と住宅ローンの差額に対して贈与税が課税されてきます。将来的な相続時にも特例により相続税を抑えることができるでしょう。
ただし、問題は、元妻の母が住宅ローンの支払者になることについて、銀行の許可を取らなければならないことです。
一般的に、住宅ローンの多くは申込時の上限が「70歳まで」となっています。こちらがかなり難しくなるので、銀行対応次第になるでしょう。
住宅ローンの名義変更後に母が一括返済するとしても難しい可能性があります。
ケース2が可能であれば、ケース1よりも少ない納税で済みますが、銀行の審査次第になります。